ペンタックスレンズ研究会

ペンタックスレンズ他光学特性データを示します。

(101)HD PENTAX-D FA☆85mmF1.4ED SDM AWの特許について

HD PENTAX-D FA☆85mmF1.4ED SDM AWの特許について

 

HD PENTAX-D FA☆85mmF1.4ED SDM AW は、満を持してSMC PENTAX-FA★1:1.4 85mm[IF]の後継レンズとして2020年6月に発売された現行品レンズです(2023.11.11現在)。高級レンズで未だに高価なレンズで前モデルのFA★85mmF1.4の定価の2倍強します。まあ、先代に比べて10群12枚とレンズ枚数も多くかつ非球面レンズもEDレンズも3枚も使用しているから仕方ない。

さて、このレンズの設計は、特許検索では2011年頃から登場する方で、リコーイメージングの能村洋一氏の設計である特開2020-154060(2019年出願)=特許第7172776号=US PAT11402608B2で、日米共に登録特許となっている設計である。この特許には実施例が何と11例も掲載されている。そのため、どれが実製品に近い実施例か探るところから始めなくてはならなかった。いつもカタログなどのメーカー記載のレンズ構成図を探して来て、これと特許の実施例のレンズ構成図と比べて、比較して候補を絞ります。それでもわからないときは、各レンズの半径をトレースしたり、レンズの厚み、レンズ間距離などが近いものと絞り込みを行っています。それでもわからないときはペッツバール和を比べて小さいものを当該製品に一番近い設計としています。

この特許はデジタル仕様の設計を公開データに掲載していて、撮像素子側にあるカバーガラスか当該の波長域を通過させるガラスが設定されているので、その部分は同じなので、実際の鏡筒についているレンズの枚数と構成から探ります。このレンズは10群12枚で、第2・第4・第6レンズにスーパーEDガラスが使用されていて、第12レンズが非球面レンズになっていて、第8群と第9群が共に2枚貼り合わせレンズの実施例を選定する。つまり、-++++++|(-+)(-+)+-のパワー配置となっている。赤はスーパーEDガラス、緑は非球面である。まず、実施例1、実施例2、実施例8と実施例11は3枚貼り合わせレンズがあり、9群12枚構成なので、これは製品とは異なる設計で除外となる。実施例7は第1レンズ形状が異なり、これも除外である。実施例9と実施例10はどちらも第2レンズと第3レンズの面間隔が製品と異なり広いため、これも除外となる。ここまでで残っている実施例は実施例3から6の4例である。実施例5と実施例6はスーパーEDレンズの使用枚数が異なることから除外となる。残りは実施例3と実施例4となるが、両方共同じ構成の10群12枚構成でスーパーEDガラスが同じ群にあり、製品と類似構成である。各レンズ配置位置がカタログ掲載レンズ構成と同じであることと、バックフォーカス長がKマウントのフランジバック長を考えるとミラー干渉の問題から長い方の実施例3が製品に近い設計値であると結論づけました。それではこの実施例3のデータを示します。まずはレンズ構成図から。

HD PENTAX-D FA☆85mmF1.4ED SDM AWのレンズ構成図

このレンズが最初の第1レンズに凹レンズが来ているのは第2レンズがスーパーEDレンズ(オハラS-FPL53と推定)であり、フローライトに比べるとよいが耐摩耗性と耐候性の問題などが通常のガラスより悪いため、その保護を兼ねて負のパワーを最初に持ってくる設計にする必要があり、このような両凹レンズが来る構成になっている。

HD PENTAX-D FA☆85mmF1.4ED SDM AWの収差図(縦)

HD PENTAX-D FA☆85mmF1.4ED SDM AWの収差図(横)

HD PENTAX-D FA☆85mmF1.4ED SDM AWの非点収差図

HD PENTAX-D FA☆85mmF1.4ED SDM AWのLateral Color(倍率色収差

HD PENTAX-D FA☆85mmF1.4ED SDM AWの2nd.Spectra

HD PENTAX-D FA☆85mmF1.4ED SDM AWのスポットダイヤグラム

HD PENTAX-D FA☆85mmF1.4ED SDM AWの波長毎のスポットダイヤグラム

HD PENTAX-D FA☆85mmF1.4ED SDM AWのスポットR.M.S.半径の波長毎の像高による変化

HD PENTAX-D FA☆85mmF1.4ED SDM AWの幾何光学的MTF(7.5/15/30LPM)

HD PENTAX-D FA☆85mmF1.4ED SDM AWの幾何光学的MTF(10/20/40LPM)

不満な点をいうと球面収差が負修正気味で、像高が高い部分で像面側に倒れていて、像面湾曲収差がsとtで像高が低いところから離れている点、非点収差も同様のプロファイルである点が残存色収差と共にスポット像の劣化を招いているように見える要因だろう。天体写真に使うには少し不満があるレンズと予想される。流石に高性能レンズの片鱗が見て取れるが、解像度重視というよりある程度階調も重視されているような気がする。