ペンタックスレンズ研究会

ペンタックスレンズ他光学特性データを示します。

(16)(17)2つのErnostarレンズの特許について

Ernemann-Werke社の2つのErnostarレンズの特許について

ドイツにかつてErnemann-Werke社というシネマ用レンズを中心に設計・製造を行っていた会社がドレスデンにあった。のちにZeissに買収される。この会社でレンズの設計を行っていたのは、Ludwig Bertele氏である。彼はSonnarタイプの発明以前に今回紹介する4枚構成の最小枚数で明るい光学系を開発している。
最初にBertele氏が明るいレンズとして設計したのがイギリス特許GB186917(出願1921年)であるErnostar 10cmF2である。日本では大正10年である。この特許にはf=100mmF2の半視野角ω=12度の中望遠レンズである。凹レンズの負のパワーを持った第3レンズの前にメニスカス凸レンスの第1レンズと第2レンズを配置し、その後ろに絞り環を配置している。第3レンズの両凹レンズの後に離れた位置に両凸レンズの第4レンズから構成され、ガラスは3種でできている。第1レンズと第2レンズは同じガラス種である。この特許のレンズ構成図の第4レンズの形状は、特許の数値と異なっていて、誤りである。

Ernstar 10cmF2レンズ構成図

Ernostar 10cmF2レンズ構成図

次にErnostar 8.5cmF1.8があり、このレンズの特許はオーストリア特許AT101912(1924年出願)のFig.1(実施例1)である。これは先のErnostar10cmF2の改良型でレンズ構成図はそっくりであるが、ガラスは何と2種だけでできている。しかも、性能がかなり良くなっている。特許ではf=100mmF2の設計であるが、製品はF1.8ということで、最初F1.8で計算したらF1.8はコバがなくなってしまうので、実質はF1.89にしないといけないようで、特許図と似た形状にするにはこの値になるので、これで計算しています。同様に実施例2があるのですが、こちらはレンズ構成が全く異なり、貼り合わせレンズを第2群に持ってきている製品とは違うものであるので、ここでは触れない。興味ある人は原本の特許を参照ください。

Ernostar 8.5cmF1.8のレンズ構成図

Ernostar 8.5cmF1.8のレンズ構成図

この2本のレンズは第4レンズを比べると違うことが一目瞭然である。ほかも違うのはいうまでもないし、ガラス種が異なっている。蛇足であるが、古い特許はガラスのパラメータがアッベ数がまだ定義されていない時代で、ガラスを推定するのに苦労した。古いガラス種は廃番になっているものもあるので、近似ガラスでアサインしている。
さて、紛らわしいので、はじめに収差図は10cmを最初に記載し、そのあとに8.5cmを掲載する。以下同様です。

Ernostar10cmF2の球面収差・像面湾曲収差・歪曲収差図

Ernostar10cmF2の球面収差・像面湾曲収差・歪曲収差図

Ernostar 8.5cmF1.8の球面収差・像面湾曲収差・歪曲収差図

Ernostar 8.5cmF1.8の球面収差・像面湾曲収差・歪曲収差図

※横軸のスケールがレンズ間で同じではないので注意してください。
10cmF2の方が収差はいうまでもなく大きいです。コンピュータがない時代に設計しているので、凄いです。

Ernostar 10cmF2の球面収差・像面湾曲収差・歪曲収差図

Ernostar 10cmF2のスポットダイヤグラム

Ernostar 8.5cmF1.8のスポットダイヤグラム

 

Ernostar 10cmF2のMTF図

Ernostar 10cmF2のMTF

Ernostar 8.5cmF1.8のMTF図

Ernostar 8.5cmF1.8のMTF

この時代のレンズはまだMTFの解析手法は知られていない時代なので、この計算をしても意味がないのかもしれないが、解像度およびコントラストが低いことがわかるだろう。それでも10cmF2から8.5cmF1.8になると改善していることがわかる。